かつてボーイング747や767を飛ばしていた巨大なジェットエンジンが、今、地上で第二の人生を歩み始めています。2025年10月、アメリカのProEnergy社が発表したプロジェクトでは、退役したGE CF6-80C2エンジンコアを、データセンター向けのガス発電タービン「PE6000」に改造。1基で最大48MWの電力を生み出し、AIの電力飢えを即座に満たす“移動式発電所”として注目を集めています。
電力危機と10年待ちのグリッド
AIブームでデータセンターの電力需要は爆発的に増加。一方で、アメリカの電力網接続には最大10年かかるのが現状です。ガス発電所の新設も部品不足で遅れ、企業は「今すぐ電力が必要」と悲鳴を上げています。そこで登場したのが、航空業界の“余剰資産”――飛行時間を使い果たしたジェットエンジンです。
エンジンコアがタービンに変身
CF6-80C2は元々、航空機の巡航効率を極めたエンジン。そのコア部分(圧縮機・燃焼室・タービン)を抜き取り、地上用の発電機と組み合わせるだけで、驚異の効率を保ったまま電力供給が可能に。トレーラーやコンクリートスラブに載せて運べるため、建設中のデータセンター横に即座に設置できます。燃料は天然ガス、CO2排出も従来の発電所より抑えられる点が魅力です。
すでに1GW超を受注
ProEnergyはすでに21基を販売、合計1GW以上の電力をデータセンター向けに供給開始。マイクロソフトやアマゾンなど大手テック企業が関与するプロジェクトで、建設期間中の“つなぎ電力”として活用されています。1基の価格は非公開ですが、グリッド接続を待つより圧倒的に安価で迅速です。
持続可能性と新たな課題
この再利用は「循環経済」の好例ですが、課題も。エンジンは中古のため寿命管理が複雑で、メンテナンス技術者も航空専門家が必要です。また、天然ガス依存は脱炭素の流れに逆行するとの批判も。将来的には、水素対応への改造が鍵となりそうです。
結論
古いジェットエンジンがAIの“心臓”を動かす――まるでSFのような話が、現実のエネルギー革命となっています。空と地上、過去と未来をつなぐこの技術は、持続可能なデジタル社会へのヒントを与えてくれるでしょう。

